本を読もう!映画を観よう!12
(2025.8.21開始、2025.9.9更新)
世の中にはおもしろい本がたくさんあるのに、学生たちの中には「活字嫌い」を標榜して、読もうとしない人がたくさんいます。貴重な時間をアルバイトと遊びですべて費やしてしまっていいのでしょうか。私が読んでおもしろかったと思う本、一言言いたいと思う本を、随時順不同で紹介していきますので、ぜひ読んでみて下さい。(時々、映画など本以外のものも紹介します。)感想・ご意見は、katagiri@kansai-u.ac.jpまでどうぞ。太字は私が特にお薦めするものです。
<社会派小説>
<人間ドラマ>1106.(NHKスペシャル)『大阪激流伝 おもろいこと おそろしいこと ぎょうさんおました』(2025年・NHK)
<推理サスペンス>
<日本と政治を考える本>
<人物伝>1104.川本三郎『君美わしく 戦後日本映画女優讃』文芸春秋/1103.手塚るみ子『オサムシに伝えて』知恵の森文庫
<歴史物・時代物>1106.(NHKスペシャル)『大阪激流伝 おもろいこと おそろしいこと ぎょうさんおました』(2025年・NHK)
<青春・若者・ユーモア>1105.あだち充『ラフ(全12巻)』小学館コミックス
<純文学的小説>
<映画等>1110.(映画)手塚治虫総指揮・山本暎一監督『千夜一夜物語』(1969年・虫プロ)/1109.(映画)小泉徳宏監督『ちはやふる 結び』(2018年・日本)/1107.(映画)塚原あゆ子監督『ラストマイル』(2024年・日本)/1101.(映画)永井聡監督『恋は雨上がりのように』(2017年・東宝)
<その他>1108.土屋健『恐竜大絶滅 陸・海・空で何が起きていたのか』中公新書/1102.信濃太郎『社会運動一兵卒の記録』新泉社
1110.(映画)手塚治虫総指揮・山本暎一監督『千夜一夜物語』(1969年・虫プロ)
朝ドラ「あんぱん」で、やなせたかしがキャラクターデザインを担当したという話が出ていたので、どんなアニメ映画だったのだろうと見てみました。今は、AMAZONプライムでぱっと探せて見られるのですから、本当にありがたい時代です。こういうアニメが作られていたことは知っていたように思いますが、まったく見たことはなく、テレビとかでも放映されたことはなかったので初見でした。完全に大人向けアニメで、色恋・セックスといったことがテーマになっていますのでテレビ放映は無理だったのでしょう。子どもの見る映画ではなかったです。そこそこヒットしたようですが、映画館に見に行ったのは、当時20歳代初めに到達していた団塊世代が中心だったのでしょう。
内容は、「アラビアンナイト」としてよく知られている様々な物語やその他の要素も詰め込んで作られています。深みはないですが、エンターテインメントとしては割と楽しめると思います。主要キャラクターは、確かにやなせたかしが作ったようですが、「詩とメルヘン」や「アンパンマン」からは想像できないキャラクターです。広告デザイン、作詞、舞台監督、脚本などなんでもできる人だったから、こういう大人向けアニメのキャラクターも作れと言えば、作れる人だったんでしょうね。
社会学的興味としては、なぜ手塚治虫が「千夜一夜物語」を作りたかったのかというところですね。やはり、今朝の朝ドラで、手塚治虫役の俳優が言っていた「今は劇画の時代になってきて、自分は古い漫画家と言われている」といったあたりなんでしょうね。劇画タッチでエロチシズムもテーマにして物語を作れるのだというところを見せたかったのでしょう。主要キャラクターを自分で考えず、やなせたかしに任せたのは、手塚漫画色が出過ぎないようにするためだったのでしょう。確かに、主人公、ヒロイン、サブヒロイン、敵役あたりの顔は、手塚のキャラクターではないです。AMAZONプライムでも「18+」に指定されていましたが、朝ドラでは、やなせ夫妻が2人で映画を観に行き「面白かった」と電話で手塚に伝えるというシーンがありましたので、子どもでも興味を持って見てみようと思う人が出そうです。まあでも、ものすごく露骨な表現はされていないので、「15+」くらいでいいのかなという感じの映画でした。(2025.9.9)
1109.(映画)小泉徳宏監督『ちはやふる 結び』(2018年・日本)
多くの人がご存じの通り、広瀬すず主演の競技カルタをテーマにした青春映画です。シリーズ3本目の映画ですが、確か前の2本も見ていると思います。コンクールのドラマで、メンバーを変えた新作がやっていて、あまり見てないのですが、先週ちらっと見たら、この映画の時のメンバーが揃って出ているという回だったので、以前はどんな話だったかなとAMAZONプライムで探して見てみました。映画の出来としてはまあまあといったところでしょうか。広瀬すずが生き生きとしています。
で、この映画について書こうと思ったのは、競技カルタについていろいろ疑問を持ったからです。まず一番大きな疑問は、どちらが札を取ったかという判定は間違いなくできているのかということです。ビデオ判定とかはないんですよね。どう考えても、どっちが取ったか微妙なケースは山のように生まれている気がするのですが、、、審判みたいな人も個人戦ならいるのかもしれませんが、団体戦ではいなさそうです。競技者同士の自己申告なのでしょうか。この映画の中でも、広瀬すずと相手役の清原果耶が、自分が取った札だと主張しあう場面がありますが、結局どう判断が出たのか、映画では描かれていませんでした。また、競技者は札を思い切り払いますが、ピンポイントでその1枚だけではなく、隣接して並べていた札も一緒に飛んでいます。お手つきでなく、当たり札をちゃんと払ったという判定も確実にできているのでしょうか?
あと、この映画で扱われているような団体戦の場合、あのくらい近接した並びで札を思い切り飛ばしたら、他の対戦者たちの札が入り混じってしまって、ちゃんと元にもどせなかったりしないのかという点も気になりました。当たり札だけ抜いて、またきちんと元の場所に戻せるものでしょうか。プロの競技者なら、最初に並べた札の場所をきちんと全部覚えているでしょうが、高校生のカルタ大会なら、自分も相手も元の場所を正確に覚えていないということもあるのではないでしょうか。なんかビデオ判定なしで、もめずに競技カルタ大会ができているのが不思議な気がします。
私は物心ついた時から、正月は百人一首をするという家庭だったので、百人一首に愛着はあるのですが、競技カルタには惹かれないですね。家族でやる分には、そこまで厳密にしなくても大丈夫なので、そのくらいの付き合いがいいなと思います。気になってしまったので、つい映画の感想以外のことばかり書いてしまいました(笑)(2025.9.8)
1108.土屋健『恐竜大絶滅 陸・海・空で何が起きていたのか』中公新書
隕石の衝突で恐竜が滅びたのというのが現在では定説ですが、なんで恐竜は滅びる一方で生き延びた生物種もいたのかがよくわかっておらず、その謎を解き明かしてくれるのではと思い買ったのですが、全然すっきりしませんでした。ほぼ古代生物学図鑑みたいな本で、わからないことはまだまだたくさんあるということで逃げられてしまい、なるほどとまったく思えませんでした。隕石の衝突による寒冷期は6年ほどだったそうですが、たったそれだけの時間で1億6000万年も栄えてきた恐竜がほぼ絶滅してしまうものなのでしょうか。体の小さな哺乳類は生き残ったと書いていましたが、生き残った生物がいるなら、それらを捕まえて餌にして生き延びられる恐竜がもっといても良かったのではと、最初に持っていた疑問がそのまま残りました。かなり残念な本でした。(2025.9.2)
1107.(映画)塚原あゆ子監督『ラストマイル』(2024年・日本)
昨年かなり宣伝されていた映画がAmazonプライムで見られたので見てみました。ストーリーはごちゃごちゃしているし、登場人物の心理も共感できずあまりはまれなかったのですが、テーマである通販事業の発展とそれを支える運輸業界の厳しすぎる状況に関しては、関心がありましたので、一応見られました。厳しすぎる運搬事業の管理で疲弊した担当者が自殺をはかり、その恋人がその恨みから爆弾を仕掛けるという話ですが、結局ほんのちょっとだけ荷物配達料が値上げされただけで、また正常の運搬に戻るのですが、なんk全然根本的解決にはなっておらず、まあそういう社会派的テーマの作品ではないから仕方ないと言えばそれまでですが、何かなあという感じでした。
映画の感想とは離れますが、本当にこの通販全盛時代、それも無料で翌日には届くといった方式はこのままでいいのでしょうか。いずれパンクしてしまうのではという気がして仕方ありません。通常郵便は翌日配達はすべてなくなて、3,4日もかかるのが当たり前になっているのに、通販の荷物だけはすばやすぎるほどすばやく届きます。働き方改革とどうやって折り合いがつけられているのか不思議で仕方ありません。(2025.9.2)
1106.(NHKスペシャル)『大阪激流伝 おもろいこと おそろしいこと ぎょうさんおました』(2025年・NHK)
終戦から1970年代初め頃までの大阪の復興と発展を、ドラマとドキュメンタリーを組み合わせて紹介した番組でしたが、とてもよい出来でした。知らなかった知識も得られましたし、ドラマ仕立てにすることでよりリアルに歴史が伝わってきました。大阪城周辺が大阪工廠という武器製造の一大産業地帯だったのは知っていましたが、日清、日露から始まって、日本の軍隊の使う武器・弾薬はすべて大阪工廠で造られていたとまでは知りませんでした。戦前は、大阪が日本最大の工業都市だったというのも、この軍需産業がらみだったわけですが、そういう認識をしていませんでした。そして、終戦日前日の8月14日も大阪工廠は大空襲を受けているということも全く知りませんでした。
戦後すぐの軍需産業が無くなり、仕事の無くなった工場が次々に潰れていく中で、1950年に始まった朝鮮特需でまた大阪で弾薬の武器が造られることになり、大阪経済の復興が大きく進んだわけです。ドラマでは、もう軍需物資は造りたくないという戦争経験者の思いや、同胞を殺す武器は造らないでくれと抗議に来る在日朝鮮人がいたりという、史実に基づいた話が紹介されます。朝鮮特需で、日本の経済は復興したという事実はみんなよく知っているわけですが、こうやってドラマ仕立てでその内容を紹介されると、単純によかったなとは全く思えなくなります。
そして、1970年の万博に反対する「反博」が、大阪城公園でこんな風に開かれていたというのも初めてちゃんと知りました。「反博」という言葉は知っていましたが、単なるキャッチフレーズとして使われていただけなのかなと思っていましたが、こういう集会があったんですね。当時中学2年生で関東に住んでいた私は、この集会のことを全く知りませんでした。
ドラマの主役の堤真一と孫娘役の伊東蒼(映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』のさっちゃんです)が非常にいいです。魅力的なドラマを楽しみつつ、多くのことを学べる良い番組です。ご覧になっていない方は、ぜひ「NHK+」で見てください。(2025.8.31)
たぶん30年ぶりくらいに再読しました。確か『タッチ』の後に『少年サンデー』で連載していた水泳を扱ったマンガだったよなというくらいしか覚えていなかったので、再読とはいえ新鮮に読みました。1980年代の『少年サンデー』の柱だったあだち充や高橋留美子の当時のマンガは結構持っていてまだ捨てずにいます。あだち充に関しては、『少女コミック』連載のマンガも結構持っています。彼の世界観、というか人間観が好きなんですよね。基本悪人がいなくて、人間が好きになる話ばかりです。ユーモアのセンスも抜群です。そして、何より良いのはメインテーマが男女の恋だということです。このマンガも全12巻ですが、読み始めたら一気に読みたくなってしまいました。70歳なんて年齢になっても、こんな青春恋愛物語を楽しめるのも不思議な気はしますが、作者自身がほぼ同世代――あだち充は私の4歳上――ですから、恋愛観や女性観が共有できるからなのでしょう。最近のマンガはまったく読んだことがないですが、きっと最近のマンガ家の描く恋愛マンガだとこんなにははまれないと思います。というか、もう今更新しいマンガを読む気も起きないのですが。
あだち充がすごいのは、セリフが少なくて、ほんのちょっとした表情、場面の絵で、深い意味を伝えてくるところです。よく小説で「行間を読む」という言葉がありますが、あだち充のマンガは「コマ間を読む」楽しみがあります。ストーリー作りも巧みで、毎回同じ顔のキャラクターを使いながら、ちゃんと人気マンガを描けていたのは、素晴らしい才能だと思います。この「ラフ」も「タッチ」も長澤まさみ主演で映画化されているようですが、評価は高くないようですね。まあでも、仕方ないと思います。マンガでしか示せない巧みな表現を実写映画で表現するのは無理でしょうから、観た人ががっかりするのは当然でしょうね。あだち充の世界はマンガでしか味わえないと思います。
あだち充はまだ連載をしているのでしょうか。1980年代に受けていた彼のちょっとした「読者サービス」的な絵が、今の時代だと「コンプラ違反」とか言われてしまうかもしれないので、もう描いていないかもしれませんね。以前、高橋留美子の『めぞん一刻』について感想を書いた時(参照:1047.高橋留美子『めぞん一刻(全15巻)』小学館)にも書きましたが、なんか今は難しい時代ですよね。80年代くらいまでの緩やかな性に対する関心や恋心を高めるマンガを読んできた世代と、そういうものはコンプラ違反でいけないと言われてきた――他方でネットを使えば過激な動画が簡単に観れてしまう――世代では、恋愛観や女性観がまったく異なるものになってしまうのも当然ですね。時計の針は逆転させられませんので、仕方がないのですが、やはりつい「昔はよかったなあ」とつぶやきたくなってしまいます。(2025.8.29)
1104.川本三郎『君美わしく 戦後日本映画女優讃』文芸春秋
久しぶりにワクワクするような本でした。これも研究室の奥深くに眠っていた本で1996年出版の本ですが、私の世代なら今読んでもまったく古びていない本です。というか今なら書けない本で、この時期だから書けた名著です。1950年代の映画最盛期に銀幕を色どった女優17名に1995年〜1996年にインタビューをしたものをまとめた本です。高峰秀子、津島恵子、淡島千景、久我美子、八千草薫、岡田茉莉子、杉村春子、山本富士子、前田通子、新珠三千代、高千穂ひづる、二木てるみ、山田五十鈴、有馬稲子、司葉子、若尾文子、香川京子の17人です。子役としてその頃から活躍していた二木てるみ以外はすべて昭和1桁以前の生まれの女優さんばかりで、みんな戦時期のことや戦後の混乱期も経験していた世代です。著者の川本三郎が非常に上手に話を引き出していていて、女優になった経緯、思い出の映画や監督のエピソードが、品の良い文章で綴られます。私はこの17人の中で知らなかったのは、前田通子という女優さんだけでした。彼女の章も面白かったです。日本で最初に映画でヌードを披露した人で、その後6社協定のせいで不遇な人生を送らざるをえなかったそうです。でも、この人の話でも、恨みつらみではない思い出話を引き出しています。
ほとんどの女優さんが私の母と近い年齢で、昭和20年代、30年代の女性の美の基準になったような人たちです。そういう時代の映画の好きな私にとっても、自分が描いていた女性の理想像に近い姿を見せてくれていますが、この本を読むと、多くの方が60歳を過ぎてなお美しく見事に生きているというのが伝わってきて嬉しくなりました。たくさんの映画がこの本で紹介されており、ああそれ見たいなと思う作品がいくつも見つかりました。ありがたいことに、今の時代ネットで結構見られるようになっているので、何本かは見てみたいと思います。
この本の出版から約30年経った今、この本の続編を作るとしたら、どんな女優さんがインタビューの対象になるでしょうね。私より少し上の世代から下の世代あたりですよね。浅丘ルリ子、十朱幸代、吉永小百合、栗原小巻、三田佳子、桃井かおり、風吹ジュン、松坂慶子、竹下景子、田中裕子、秋吉久美子、名取裕子、薬師丸ひろ子、原田知世、といった方々でしょうか。「君美わしく」という感じの内容にはならないかもしれませんが、読んでみたいです。文芸春秋さん、続編を誰かにやらせてみてほしいものです。(2025.8.26)
手塚治虫の長女である手塚るみ子が父親や家族についてのエピソードを書いた本です。文章も上手くなく、エピソードも面白くなくて、いったん放り出していた本ですが、このまま終えるのも気持ちが悪いので、引っ張り出して後半3分の2くらいを一気に読みました。ちょうど著者が高校生くらいからの部分で多少親子関係等が面白くなり始めたので、なんとか読めました。手塚治虫には、真、るみ子、千以子の3人の子どもがいますが、著者であるるみ子がもっとも我儘で手のかかる娘だったようです。高校時代から無断外泊などを頻繁にし、母親に厳しく怒られても父親の手塚治虫が優しいので、それをいいことに好き勝手しています。急にエスカレータ式の大学に行きたくない、受験をすると言ったかと思えば、すぐにやめてしまったり、卒業旅行では親に金を出させてオーストラリアに1人旅をしたりとやりたい放題です。
1964年生まれの著者は均等法第1世代に当たり、バブルに入る頃の就職活動だったようですが、あまり優秀ではなく、父親のコネを使っての入社なども試みたようです。結局なんとか広告代理店に勤めることができましたが、そこでも父親のネームバリューを使おうとしたりします。父親の七光で生きてきたような人物です。会社で付き合い始めた男性と結婚したいと両親に伝えますが、まだ若すぎると反対されますが、優しい父親はとりあえず同棲することを許可します。
そんな勝手な生活をしていた時代に、手塚治虫に癌が発見され、最後の3分の1ほどは、その父親の病気と死についての話になります。この文章も下手で勝手気ままにどうでもいいようなことを書いているだけのこの本が文庫化までされたのは、この3分の1があるからなのだなと理解できました。もちろん、文章はうまくないですが、手塚治虫とその家族、親戚などとの関係が見えてくるこの病院の場面が克明に描かれているので、偉大な漫画家・手塚治虫の最後を記した本として価値があると思われているのでしょう。
個人的には、私も自分の父親を見送る時に似たような経験をしているので、ちょっと特別な思い入れを持って、最後の100頁くらいは一気に読んでしまいました。手塚治虫は昭和3年生まれで平成元年に亡くなったのですが、私の父親は昭和2年生まれで平成3年に亡くなっていますので、ほぼ同じ時代を生き、亡くなっています。同じように癌でしたし、入院先に親戚が見舞いに来たり、最後の場面など重なるところも多く、ここだけは読みごたえがありました。
ちなみに、この本の著者も、兄に当たる手塚真も、父親の遺産で食べているような人生みたいですね。まああれだけ天才的頭脳を持ち、すばらしい作品を残した人物を父親に持つというのも、それはそれでなかなか大変な人生なのかもしれませんね。(2025.8.24)
1102.信濃太郎『社会運動一兵卒の記録』新泉社
研究室の奥に眠っていた本ですが、薄い本でしたし、捨てる前に読んでみようと思い、読んでみました。信濃太郎という人物はウィキペディアにも紹介がない人物なので、まったく知らない人でしたが、本書を読むと、大正時代から労働運動や社会主義運動に関わり、この本を出した時点で80歳近くなっている人物でした。言わば、この本は自分史の一種で生い立ちから始まって様々な運動に関わり、何度も逮捕され、戦後も基本的に立場を変えずに闘ってきたということが語られます。途中いろいろ著名な運動家が出てきて、その世界ではこの人物もそれなりに有名人だったのかもしれないと思わされますが、ウィキペディアに紹介されるほどの大きな事績を残した人物ではないということなのでしょう。思いつくままに文章を書き連ねており、いつのことなのか正確な日時を書いてくれていないし、話によっては時代が行ったり来たりもするので、社会運動史の資料としても使いにくいです。唯一興味深かったのは、戦前の警察の社会運動に対する対応や、戦後になってそういう警察がどう変わったかといったあたりの話です。この著者は何度も逮捕され留置所には何度も入っていますし、暴力的追求も受けていますが、結局釈放され監獄には一度も行っていないようです。獄中で亡くなったとか転向したといった有名な人物の話はよく聞きますが、留置所までで済み生き延びた人物の話というのもそれはそれで貴重な気がします。タイトル通り「社会運動一兵卒」の話ということなのでしょう。(2025.8.24)
1101.(映画)永井聡監督『恋は雨上がりのように』(2017年・東宝)
重苦しい作品を見るのがしんどかったので、楽しく楽に見られそうな作品として見てみました。割とよかったです。ヒロイン役の小松菜奈という女優さん、目の印象がきつくてちょっと苦手だったのですが、この映画ではちょうどその睨んでいるような目というのが役柄の前半で活かされていて、後半に入って気持ちが変わってくると、その目が優しく見えてきたので、この役にはぴったりだったかなと思います。
女子高生がバイト先の冴えない中年店長に恋をする話ですが、その店長を大泉洋が演じているので、危険な方向に話は進まず、むしろヒロインの女子高生も中年の店長ももう一度夢に向かって努力してみようという話になります。見終わっての後口のよい映画です。大泉洋が人気があるのは当然だなと思いました。(2025.8.21)